微生物の未来 〜 その4 微生物が産生するチトクロームP450 〜
タイトル:微生物の未来 〜 その4 微生物が産生するチトクロームP450 〜
こんにちは。ビッグバイオ研究部のtsuです。
2022年最初のブログになります。遅くなりましたが、本年もよろしくお願いします!
世界情勢が大きく動いて、いろいろと考えることが多くなったのではないでしょうか?
これに関連しているのかどうか不明ですが、急激にサイバー攻撃も増えてきていますね。
どこで何が繋がっているかわからないもので、ちょっとしたことが、ニュースの尻尾になるかもしれませんよ!
・ はじめに
今回は微生物の未来、その4 微生物が産生するチトクロームP450と題し、チトクロームP450というタンパク質について見ていくことにしましょう。きっと、微生物のさらなる可能性を感じて、微生物をより理解していただけると思います!
前回の「その3 微生物と2021年のノーベル化学賞」をまだご覧になっていない方は、こちらからお読みいただけます。
・ チトクロームP450とは?
Fig. 1 チトクロームP450の高次構造
リンクによる
チトクロームP450は、有機化合物に一原子酸素を導入するモノオキシゲナーゼ反応を触媒する酵素の総称です。単にP450やCYP(シップ)と呼ばれることがあります
(以下P450とする)。異物代謝や二次代謝産物の生合成など多岐にわたる生命現象を支えており、カビ、酵母、植物、昆虫、魚類、および哺乳動物にいたるまであらゆる生物に存在しています。
還元状態で一酸化炭素と結合したとき、450nm(可視光線の青色に近い波長)に吸収極大を示すことから、チトクロームP450という名前がつけられました。チトクロームとは、ヘモグロビンと類似した構造を持つタンパク質で、細胞呼吸における電子伝達系に関与しています。ところが、チトクロームP450は従来のチトクロームとは本質的に異なります。
チトクロームP450は生体内で多くの生理機能を持っています。例えば、ステロイドホルモンの生合成、胆汁酸の生合成、プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエンなどの生理活性物質の合成、活性型ビタミンD3の生合成などに関与しています。このことから、薬物代謝のための酵素として考えられた時代もあるようです、現在は、薬物代謝のみならず、非常に有用性のある酵素であると認識されています。この酵素の反応パターンは、芳香環の水酸化、側鎖の水酸化、o-脱アルキル、脱ニトロ、脱ハロゲンなど多種多様で、生物の有機化合物分解にとってとても都合の良い反応系になります。
・ 微生物とチトクロームP450
P450を作り出す微生物として、Bacillus属、Streptomyces属、Mycobacterium属、Rhodococcus属、Pseudomonas属などが報告されています。
属を超えて広く分布していると考えられていますので、今後さらに多くの微生物にP450が発見されることが期待されます。
ここで、実際にどのような場面で役立っているのか例を見ていきましょう。
1. 農薬の分解
防虫剤として使われているカンフルはPseudomonas属により、酢酸とイソ酪酸にまで分解されます。
また、除草剤であるスルホニルウレアはStreptomyces属によって代謝されます。
2.有機塩素化合物の分解
Rhodococcus chlorophenolicusによって、ポリクロロフェノールを代謝する事が知られており、クロロフェノールはMycobacterium fortuitumによって代謝されることがわかっています。
また、土壌を燻蒸消毒する農薬であるクロルピクリンやBTM(ブロモトリクロロメタン)、DBPC(1,2-ジブロモ-3-クロロプロパン)なども代謝されることがわかっています。
3.芳香族炭化水素類の代謝
殺虫剤であるプレコセン2やベンゾピレン、エリスロマイシン、ワーファリン、テストステロンなどを代謝することがわかっています。
4.その他の有機化合物の分解
石油成分であるアルカン類を分解することがわかっています。オクタンやヘキサデカンなどが対象になるようです。
このように、さまざまな種類の有機化合物が対象になることがおわかりになることでしょう。
・ 最後に・・・・・
現在、日常的に何万種類という化学物質が使用されていると言われています。これら化学物質はさまざまな過程で環境中に放出され、大気圏や水圏、土壌などから検出されています。
環境中に放出された化学物質を除去することは非常に困難で、除去するため新たな化学物質を使用することもあります。ところが、一部の自然界に放たれた化学物質は、微生物が作用して分解・除去され環境に戻されていることも事実です。例えば、クロロホルム(1)、トリクロロエチレン(2)、テトラクロロエチレン(3)、ジクロロメタン(4)を始め、有機塩素化合物やポリビニルアルコール(5)、有機水銀(6)、有機スズ(7)、PCB(8)などを分解することも知られています。これら化学物質の分解に関与しているのが、今回のテーマであるチトクロームP450なのです。
ビッグバイオではBB菌を環境修復技術として利用しています。昨今、さまざまなバイオレメディエーション技術が注目される中、ビッグバイオは20年以上に渡り、微生物による環境浄化技術を開発、実践してきました。今回紹介してきたチトクロームP450に関する知見は、日々更新されていますが、推測の域を超えきれていない知見もたくさんあります。環境中で微生物がチトクロームP450をどのように作り出しているのか不明点が多いため、もし解明することができれば、環境浄化技術をより確かな技術として確立できると期待できます。
参考文献
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