微生物の未来 〜 その3 微生物と2021年のノーベル化学賞 〜
こんにちは。ビッグバイオ研究部のtsuです。早いもので11月も半ばを過ぎてしまいました。今年も残り1ヶ月半となりましたが、今年はどんな年だったでしょうか?
残念ながら、2021年11月9日に亡くなられた瀬戸内寂聴さんは、「人生はいいことも悪いことも連れ立ってやってきます。不幸が続けば、不安になり、気が弱くなるのです。でもそこで運命に負けず勇気を出して、不運や不幸に立ち向かってほしいのです。」という言葉を残されています。どんなときでも前を向くしかないということですね。
- はじめに
今回は、微生物の未来その3と題し、微生物と2021年のノーベル化学賞との関わりを見ていくことにしましょう。
もし「その2 微生物とバイオテクノロジー」をご覧になってない方は、こちらからお読みいただけます!!
分野としては有機合成化学というものになります。単純な化学物質からスタートして、望みの化学物質をどうやって作るのかという研究が主な内容です。
内容のイメージからして、難しいそうなイメージをお持ちになるかもしれませんが、実は私達生物が生きるためにとても重要なことに関わっている分野なのです。
特に2021年のノーベル化学賞の内容は深い関わりを示す内容となります。
- 2021年のノーベル化学賞とは?
「不斉有機触媒」を発見した功績によりBenjamin ListとDavid W.C MacMillanの2人がノーベル化学賞を受賞しました。
これまで2種類しかないと考えられていた「触媒」という反応原理ですが、これら以外に第3の触媒である有機分子が触媒を担っていることを発見しました。
両氏の発見以降、触媒研究は発展し、新薬から太陽電池にいたるまであらゆる物を効率よく構築できるようになりました。
特に医薬品研究に大きな影響を与えました。SDGsが唄われている昨今、環境に優しい有機合成への期待もされています。
Fig.1 反応例とアルドール反応
Northrup, A. B.; MacMillan, D. W. C. J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 6798.
Northrup, A. B.; MacMillan, D. W. C. Science 2004, 305, 1752
Sakthivel, K.; Notz, W.; Bui, T.; Barbas, C. F., III J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 5260
より出典・改変
- 触媒とは?
化学反応というのは、実は非常に時間がかかります。
学校などで行う理科の実験は単発で瞬時に反応が起こりますが、実際は非常に時間がかかる反応がほとんどなのです。
そこで「触媒」というものが登場します。「触媒」はある化学反応の反応速度を早める物質のことで、触媒自身は反応前後で変化しないものを言います。
これまで触媒となる化学物質は金属と生体触媒(酵素)の2通りでした。金属触媒の代表格は白金が挙げられます。
また生体触媒(酵素)はアミラーゼやトリプシン、リパーゼなどの酵素があり、健康食品などで一度は聞いたことがあるかもしれません。
これらを踏まえ「有機触媒」とは、金属元素を含まず、炭素、水素、窒素、硫黄などの元素からなる低分子有機化合物のことになります。これに対し、生体触媒(酵素)は高分子有機化合物となります。
- 生物と触媒の関係
生物と触媒の関係は切っても切れない関係にあります。私達生物が活動するために必要なエネルギーを作り出すことも触媒はなければ実現しません。
もちろん、微生物も同様で、この触媒がなければ生命活動ができない状態になります。
ところが、近年放線菌という微生物が有機触媒を作るという報告がされました。微生物も生命活動を行っているので、生体触媒は必ず持っています。
それに加え有機触媒も持っているということが示唆されたのです。この報告では、抗生物質として知られているアクチノロージンが、アスコルビン酸やシステインを酸化し、デヒドロアスコルビン酸やシスチンと過酸化水素を作る反応に関与していることがわかりました。
「有機触媒」は、これまで複雑に行われていた合成反応を単純化できる可能性も含まれています。それを微生物が作っているということになれば、これまでとは異なる概念を導き出し、目線をより多角的に持つ必要があるかもしれません。
- 最後に・・・・・
金属触媒が研究の中心であった時代背景にあって、毒性が強く環境への負荷も高い元素をなるべく使わない化学合成を行うのは非常に重要な課題となっていました。
しかしながら、今回の有機触媒の登場により、複雑だった合成を単純化しかつ、安全に行えることが非常に意味のあることとなります。
また、微生物が有機触媒を作っていることが示唆されたことから、ビッグバイオのBB菌の中にも有機触媒を作っている微生物がいることが考えられます。
弊社で出している主な製品はカビ予防、水質浄化、ニオイ対策、ヌメリ対策、農業関連と多岐に渡りますが、実は有機触媒が関わっていることでこれらの現象を起こしているかもしれないと思うと、非常に興味深い製品群と思います。解明し、よりもっと有用な情報をお届けできるようになりたいと思います。
tsu
研究部 技術開発課に所属するtsuです。時々、社内SEもしています。 研究開発に従事する傍ら、データ分析を行ったり、アプリケーション開発も行ったり、データサイエンス関係もしています。研究分野とIT分野が融合すれば、面白いですね。 専門はバイオテクノロジーです。